でもこの “赤ちゃん返り” は、心理学では 問題行動ではなく “愛着の確認” 行動 として説明されます。
ミシガン大学の Volling 教授らがレビューした研究では、上の子のおよそ 90% 以上が何らかの行動変化 を示し、その多くが 6か月以内に自然に落ち着く ことが示されています。
赤ちゃん返りは “わがまま” ではなく “愛着の確認” 行動
結論からお伝えすると、上の子の赤ちゃん返り(regression)は「お母さんは私のお母さんでもあるよね?」を自分もある愛着行動の一種として理解されます。心理学者ボウルビィの愛着理論(Attachment Theory)では、子どもは強いストレスを感じたとき、安全基地である養育者にしがみつく行動を取るとされます。
下の子の誕生は、上の子にとって人生最大級のストレスイベント。それまで100%自分に向いていた親の関心が、目の前で別の存在に注がれる体験は、想像以上に大きな揼さぶりです。だから「赤ちゃんに戻れば、また私を見てくれる」という戦略を、無意識のうちに取り始めるのです。
研究で分かった発生率と “落ち着く時期”
ミシガン大学の Volling(2012)が複数の縦断研究を統合したレビューによると、上の子の赤ちゃん返りには�)�くほど明確なカーブがあります。Stewart ら(1987)の縦断研究では、92%の上の子が下の子誕生後に何らかの「行動の難しさ」を示しましたが、その多くが半年〜1年で落ち着いていきました。
※ Volling (2012, 2017), Stewart et al. (1987), Dunn & Kendrick (1982) のデータをもとに作成
「いつ終わるか分からない」と思うと辛いものですが、出産直後がピーク、半年で多くは落ち着くという見通しを持つだけで、親の心の余裕は大きく変わります。
退行行動の “3つのパターン”
赤ちゃん返りは大きく次の3タイプに分類できます。どのタイプも “愛されている確認” が根っこにあるという点では同じです。
「わざと困らせる」行動の正体は “注意要求”
多くの親がいちばん戸惑うのが、タイプ3の中でも特に “わざと困ることをする” 行動です。「下の子のミルクをこぼす」「親が見ているところで悪さをする」「優しく接していたのに突然つねる」── これらには共通の構造があります。
つまり、わざと困らせる行動が増えたら、それは「もっと見て」のサイン。叱る回数を増やしても、注意要求の戦略としては成功しているので、むしろ強化されるという皮肉な構造に陥ります。
親がやりがちなNG対応
- 「お兄ちゃん/お姉ちゃんなんだから」 — 役割を押し付ける言葉は、上の子に「自分はもう赤ちゃんじゃないから愛されない」と感じさせてしまいます。
- 下の子と比較する — 「赤ちゃんはまだ小さいんだから優しくして」は、上の子から見ると“下の子優先” の宣告です。
- 退行を叱って戻させようとする — 「赤ちゃん言葉やめなさい!」と矯正すると、注意要求が別の形(癇癪・破壊行動)に置き換わるだけ。
- 気持ちを聞かずに正論を返す — 「ママだって疲れてるの」「我慢して」より先に、まず子どもの気持ちを言葉にする必要があります。
研究が示す “上の子最優先” の3つの声かけ
Dunn & Kendrick(1982)の古典的研究以降、繰り返し確認されているのは、“上の子に意識的に向ける親の関心の量” が、退行の長さと兄弟関係の質を決めるという事実です。具体的には、次の3つで十分です。
上の子が読んで安心できる絵本3冊
言葉でうまく言えない上の子の気持ちを、代わりに整理してくれるのが絵本の力です。研究で示された「気持ちを言葉化する効果」も活かしつつ、2〜6歳の上の子に特に響く定番3冊を厳選しました。
まとめ ― 退行は “終わる” 行動です
赤ちゃん返りは、上の子が「私もまだ愛されているか」を確かめている 愛着行動です。研究上は9割以上の上の子に表れ、半年で多くは落ち着くもの。叱って戻そうとするほど別の形で長引き、受け入れて寄り添うほど早く収まる ── これが繰り返し確認されている結論です。
親として最も効くのは、1日10分の “上の子だけ” の時間 と、「待ってくれてありがとう」 の積み重ね。完璧な対応よりも、続ける姿勢の方がずっと効きます。
📚 参考文献(タップで開く)
- Volling, B. L. (2012). Family transitions following the birth of a sibling: An empirical review of changes in the firstborn’s adjustment. Psychological Bulletin, 138(3), 497–528.
- Volling, B. L., Yu, T., Gonzalez, R., Tengelitsch, E., & Stevenson, M. M. (2017). Maternal and paternal trajectories of depressive symptoms predict family risk and children’s emotional and behavioral problems after the birth of a sibling. Development and Psychopathology, 29(4), 1307–1324.
- Stewart, R. B., Mobley, L. A., Van Tuyl, S. S., & Salvador, M. A. (1987). The firstborn’s adjustment to the birth of a sibling: A longitudinal assessment. Child Development, 58(2), 341–355.
- Dunn, J., & Kendrick, C. (1982). Siblings: Love, Envy and Understanding. Cambridge, MA: Harvard University Press.
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss, Vol.1: Attachment. New York: Basic Books.
- Howe, N., Aquan-Assee, J., Bukowski, W. M., Lehoux, P. M., & Rinaldi, C. M. (2001). Siblings as confidants: Emotional understanding, relationship warmth, and sibling self-disclosure. Social Development, 10(4), 439–454.
分離不安・登園しぶり・対人関係の悩みを根本から理解する、論文ベースの愛着理論ガイド。Sroufe縦断研究、日本の文化的特徴まで網羅。
研究ハブ記事を読む →




